
MPLS(Multiprotocol Label Switching)は、IPルーティングのようにヘッダ全体を見るのではなく、固定長32ビットのラベルを参照して高速にフレームを転送する技術です。1990年代後半のIETF MPLSワーキンググループでの議論を経て、2001年1月にRFC 3031として基本アーキテクチャが標準化されました。ラベル配布プロトコルLDP(RFC 3036/RFC 5036)やトラフィックエンジニアリング向けRSVP-TE、サービス提供のMPLS L2VPN/L3VPNなど周辺仕様も整い、通信事業者のバックボーンや大企業WANで長らく主役を務めてきた、キャリアネットワークの古典的中核技術です。
この記事の目次
- ラベルスタックとLER/LSRの役割
- 1996年提案から2001年RFC 3031まで
- 通信事業者・大企業WANでの主な用途
- SR-MPLS・SRv6・SD-WANとの位置関係
- まとめ
ラベルスタックとLER/LSRの役割

MPLSの中心要素は4バイトのラベルで、20ビットの値、3ビットのTC(旧EXP, 優先度)、1ビットのS(スタック最下位)、8ビットのTTLから構成されます。パケットはLER(Label Edge Router)で入域時にラベルが付与され、LSR(Label Switching Router)はラベル値とインターフェースの組み合わせをラベルテーブルで参照して転送先を即決し、出域LERでラベルを外して通常のIPパケットに戻します。IPルーティングのようなロンゲストプレフィックスマッチを必要としない単純なテーブル参照で済むため、高速転送に向きます。
ラベルは多重スタック化が可能で、トンネルの上にVPN識別ラベルを重ねる、SR-MPLSではノードSIDとAdj-SIDを重ねるといった使い方ができます。ラベル配布はLDPがホップ単位で行うのが基本で、トラフィックエンジニアリング用途ではRSVP-TE(RFC 3209, 2001年)が明示パスを設定します。近年はセグメントルーティングMPLS(SR-MPLS, RFC 8660 で標準化)により、LDP/RSVP-TEを廃しIGP(OSPF/IS-IS)拡張でラベル分配を行うシンプル化が進んでいます。
1996年提案から2001年RFC 3031まで

MPLSの源流は1996年頃、Ciscoの「Tag Switching」、IBMの「ARIS」、Ipsilon Networksの「IP Switching」など複数のラベル転送方式が並立した時代に遡ります。1997年にIETFのMPLSワーキンググループが発足し、これらを統合した標準化作業が本格化、2001年1月にRFC 3031で「Multiprotocol Label Switching Architecture」が正式に公開されました。同時期にラベル配布のLDP(RFC 3036, 2001年)、トラフィックエンジニアリングのRSVP-TE(RFC 3209, 2001年)が次々と整備されています。
2000年代を通じて、ATM/Frame Relayから移行する通信事業者がMPLSを採用し、L3VPN(RFC 2547bis, 後のRFC 4364)やL2VPN(VPLSなど)の標準化が進みました。2010年代に入るとIPv6対応のMPLSや、TE機能を持たせるためのIGP拡張、そしてSDN潮流を背景にしたセグメントルーティング(SR-MPLS, 2019年RFC 8660ほか)への流れが進み、従来のLDP/RSVP-TE中心の運用から、IGP単独で経路制御を完結させるシンプル化へと舵が切られました。後継のSRv6も登場していますが、既存資産の延長線上でMPLSが現役で使われ続けている事業者も多数あります。
通信事業者・大企業WANでの主な用途

通信事業者のWANサービス基盤としてのMPLSは、特にMPLS L3VPN(RFC 4364)が圧倒的シェアを占めてきました。事業者バックボーンのPEルータが顧客拠点ごとにVRFを持ち、ラベルスタックで顧客識別子を運ぶことで、共通の物理網上に数千社の独立VPNを構築できます。VPLS(RFC 4761/4762, 2007年)やEVPN(RFC 7432, 2015年)といったL2VPNもMPLS基盤上で広く提供され、企業の本社・支店間接続の標準サービスとなりました。
トラフィックエンジニアリングではRSVP-TEで明示パスを設定し、特定区間に帯域予約を行うことで、長距離回線の利用率最大化や災害時の代替路確保を実現します。MPLS Fast Reroute(FRR, RFC 4090)は障害発生時に50ミリ秒以下で迂回経路へ切り替える仕組みで、SDH/SONET相当の高可用性を実現します。QoSはTCフィールド(旧EXP)で表現し、音声・映像・データを優先制御することで、コンバージドサービスの基盤として機能してきました。近年はSDN/SD-WANの台頭で「インターネット併用」が進むものの、ミッションクリティカルなWAN品質を求める顧客向けにMPLS L3VPNは引き続き重要な選択肢です。
SR-MPLS・SRv6・SD-WANとの位置関係

SR-MPLS(Segment Routing over MPLS)は、LDPやRSVP-TEを廃し、IGP(OSPFv3/IS-IS)拡張でラベル(SID)を配布する設計です。RFC 8402(2018年)で基本概念が定義され、RFC 8660(2019年)でMPLSデータプレーンへの適用が標準化されました。従来のMPLS資産を活かしながら、運用を大幅に簡素化できる進化形として、Tier-1キャリアでの採用が広がっています。より先進的なSRv6(RFC 8754, 2020年)は、IPv6ヘッダのSRH(Segment Routing Header)でセグメントリストを運び、MPLSラベルそのものを使わない設計です。
一方、企業WANではSD-WANの台頭で「MPLS縮減」が進み、インターネット回線中心の運用に切り替える事例が増えました。ただしMPLSは「品質保証されたSLA」と「事業者の運用責任」が魅力で、金融・医療・製造の重要拠点接続では依然として中核サービスです。EVPN-VXLANがデータセンタ内のL2に置き換わる一方、EVPNはMPLS上でも動作し、L2VPNサービスの統合制御プレーンとして併存しています。MPLSは「衰退する技術」というより「より洗練された姿に進化しながら長期にわたり残る技術」として位置付けられます。
まとめ
MPLSは2001年のRFC 3031で標準化されたラベルスイッチング技術で、LER/LSRによる高速転送、L3VPN/L2VPNサービス、TE/FRRによる高信頼運用が特徴です。通信事業者のバックボーンと大企業WANの中核として20年以上利用され、現在はSR-MPLSやSRv6への進化、EVPNとの統合という新潮流の中にいます。SD-WANやSASEに置き換えられる部分もありますが、SLA保証付きの重要拠点接続では引き続き第一線で使われ続けるキャリアグレード技術です。
※本記事はIT用語辞典の手書きドラフトです。公開前に最新情報・出典を確認のうえ加筆修正してください。

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